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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(オ)146号 判決

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人山道昭彦、同魚野貴美夫、同二宮征次郎の上告理由について。

原判決は、本件貨物の紛失は運送人である被上告人の重過失により生じたものであり、同人は荷送人ミツミ電機株式会社に対してその損害賠償義務を負うが、本件運送契約においては被上告人はその港湾運送約款に基づき運送する旨の約定があるところ、同約款一条二項には「この約款に定めてない事項は、法令又は慣習(若しくは関係船会社の海上運送約款)による。」との定めがあり、右関係船会社であるベン・ライン・ステイマーズ株式会社の海上運送約款九条には、船主は貨物の送り状価格または一梱包あたり一〇〇ポンドのどちらか低い方の金額を越えてクレームを請求されないものとすると定められているので、被上告人の右損害賠償義務は、右海上運送約款九条所定の額の範囲に制限されると認定判断する。

しかしながら、原審の確定した右事実によると、被上告人の損害賠償義務について右海上運送約款九条が適用されるのは、港湾運送約款中にそれに関する定めがないときに限られることが明らかであるから、右海上運送約款九条により被上告人の損害賠償義務が制限されるとするには、先ず港湾運送約款中にそれに関する定めがないことを認定判断しなければならないというべきである。しかるに、原判決は、港湾運送約款中にその定めがないことに関して認定判断をしないまま、直ちに被上告人の損害賠償義務に関して右海上運送約款九条の適用があり、その義務は制限されるとするのである。そして、原判決が証拠として挙示する乙第一号証(港湾運送約款)に徴すると、むしろ、同約款二一条一項には「当社(被上告人)の責に帰すべき事由によつて損害を生じたときは会社(被上告人)は送状に記載された価額又は委託者が申告した損害実額を賠償する。」と記載されているのである。そうすると、原判決には、被上告人の本件損害賠償義務が右海上運送約款九条により制限されるとの結論にいたるための重要な事項についての判断を遺脱し、ひいて理由不備の違法があるものといわなければならない。以上のとおりであるから、原判決中上告人の控訴を棄却した部分は破棄を免れないところ、被上告人の前記損害賠償義務に関し港湾運送約款に定めがないか否か、その損害賠償額等について更に審理を尽させるため、右部分につき本件を原審に差し戻すのを相当とする。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

上告代理人山道昭彦、同魚野貴美夫、同二宮征次郎の上告理由

一、原判決は「被上告人会社が、本件七五ケースのうち一ケース(ケース・ナンバー二)をその運送保管中重大過失により紛失し、右ケース・ナンバー二の保険価格が金一五七万九、八八四円であることおよび上告人(控訴人)が訴外ミツミ電機株式会社に対して右金員を保険金として支払い保険代位した旨」の認定した上で、被上告人(被控訴人)の抗弁事由である「……港湾運送約款第一条二項および本船ベンロイヤル号の船舶所有者であるベンライン・ステマー株式会社の海上運送約款(船荷証券約款)の規定により被上告人(被控訴人)の負担すべき責任は一〇〇ポンド(金八六、四〇〇円)に限定される」と認定している。

二、しかし上告人(控訴人)は、原判決の右判示は以下に述べる点において判決に理由を附せず又は理由に齟齬ある違法があるものであるから破棄すべきものと信ずる。

原審において、上告人(控訴人)は、右の点に関する被上告人(被控訴人)の抗弁に対して次のように主張している。即ち、港湾運送約款第二一条一項には「当社の責に帰すべき事由によつて貨物に損害を生じたときは当社は送状に記載された価額又は委託者が申告した価格を限度として損害実額を賠償する」との規定があり、同二項には「前項の場合において損害額について争がある場合は公平な第三者の鑑定若しくは評価によつてその額を決定する」と規定されている。右のように港湾運送約款の諸規定は損害実額弁償主義の建前になつている。これは一定の場合には損害実額を弁償する旨、むしろ積極的に規定しているわけであつて、被上告人(被控訴人)主張の如く同約款には責任限度額に関する規定がないから同約款第一条二項「この約款に定めていない事項は法令又は慣習(若しくは関係船会社の海上運送約款)による」に従い関係船会社の海上運送約款(船荷証券約款)九条による制限責任しか負わないと云うことにはならない。即ち、被上告人(被控訴人)と訴外ミツミ電機株式会社間本件運送契約には海上運送約款に定める責任限度額(一〇万円乃至一〇〇ポンド)の規定の適用は全くないものである。

右に副う証拠として被上告人(被控訴人)の港湾運送事業及び右港湾運送約款についての許認可事務の主務官庁である運輸省港湾局港政課の担当官天谷純男の控訴審での証言によれば、同証人は右港湾運送約款二一条には「実額弁償の規定が明白に規定されていること」および「これまでにも港湾運送契約に責任限度額の規定を入れて欲しい旨の要望があつたが、利害相反することも出て来ますので……目下検討中と云うことになつていること」等の証言をしている。

右のように、港湾運送約款には明白に実額弁償の規定があるから、同契約に定めていない事項として海上運送約款(船荷証券約款)の責任限度額(一〇〇ポンド乃至一〇万円)の適用は本件運送契約に関しては全くないものである。

然るに原審は、被上告人(被控訴人)の抗弁に対する上告人(控訴人)の積極否認である重要な事実上の主張として港湾運送約款第二一条一項の存在とその適用を主張して居るにも拘らず、これに対する当否及びその判断理由を示さず上告人(控訴人)の請求を棄却したものであるからこれは絶対的上告理由である民事訴訟法三九五条一項六号即ち、「判決に理由を附せず又は理由に齟齬あるとき」に該当するので原判決は破毀さるべきである。

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